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「脳を鍛える筋トレ」 PNFとはなにか
市川繁之 鈴木克憲 織田淳太郎
光文社新書 2006/10/20


* 動きの支点を作る

  湯原に対する市川のPNFは、まず筋肉の緊張という"邪魔者"を取り除くことから 始まった。人のもつ反応特性を利用し、抵抗、圧縮などによって、肩甲骨をあらゆる方向へと動かし、癒着したように凝り固まった筋肉の張りを取っていくというプロセスである。
 さらに、スイングにおける筋肉の連動を考えたとき、胸椎のどこに動きの支点を作るかも重要だった。これによって、スイングの加速がスムーズに促され、脊椎やその周辺筋肉へのストレスも最小限に抑えることができる。
 三カ月後、シーズン突入を直前にして、湯原の背筋痛は嘘のように治まっていた。彼はそのままツアーを転戦したが、その合間を縫って、たびたび市川の許を訪れた。背筋痛予防のためのメディカルチェックとフォームのチェックのためだった。
「しかし、ゴルフはメンタルなスポーツです。メンタルがフィジカル面に大きな影響を与える。スポーツ心理学でもよく言われますが、"悪魔の囁き"が自分の感覚を信じ させなくしてしまうわけですね。
 構えた瞬間、すべての情報を感覚的に把握しているのに、『右から風邪が吹いている から、こっちはまずいぞ』などという思考が働いてしまう。肉体の感覚を疑って、再び思考に頼ってしまうから、かえって体が硬直してしまうんですよ」
 この"悪魔の囁き"からも解放されたのか、市川のPNFを受けてから約一年半後(平成2年)、湯原は『ポカリスエットオープン』を制覇。七年ぶりの男子ツアー優勝を成し遂げ、以後、復活への道程を歩み始めていく。

*腰痛の治療

 斉藤と湯原の復活へのプロセス。噂は新たな噂を呼んだ。市川のPNFの存在はさらに他のアスリートに広がり、その一部の人たちが、密かに彼の許を訪れた。
 柔道の古賀稔彦、マラソンの有森裕子や増田明美、テニスの松岡修造、大相撲の若貴兄弟や栃東、大翔山、バレーボールの中田久美・・・・・・多くの一流アスリートが市川を訪れると、その"神の手"に復活やパフォーマンス向上への道を託した。
 なかには巨人の松井同様、日本の注目を一身に集めた大物アスリートも何人か存在する。 その一人が大関(当時)貴乃花である。

中略

 貴乃花が横綱昇進(平成6年11月)を果たしたのは、それからまもなくのことである。優勝22回。基本に忠実な押し相撲で『平成の大横綱』と呼ばれ、平成15(2003)年1月場所を最後に、彼は満身創痍のまま引退した。
 この貴乃花が市川のPNFに頼っていた頃、さらにもう一人の大物アスリートが市川を訪ねてきた。
  野茂英雄──  。プロ野球選手のメジャー挑戦へパイオニアの的存在になった「奪 三振王」である。

第三章より抜粋
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